ブラックバーンのマウスピースを導入しました

 多分、トランペッターで最初から「これ」というマウスピースに巡り会えた人は極めて珍しいのではないでしょうか。長いキャリアの中で、唯1本のマウスピースで事足りている方は非常に幸福だと言わざるを得ません。それこそ才能でしょう。

  私はひどいもんです。現在、手元にあるマウスピースの数を数えましたが、30本あまり。おそらくプロの方だと100本単位で所有されているのでしょう。が、しかし、30本といっても、仮に1本7000円で算定すると、21万円。うお、楽器本体が1本買える・・トランペッターは哀れな人種ですので、新しいマウスピースを使うことによって「1音でも高い音が出る」「何となくいい音がするような気がする」「持久力が1分伸びた」などの錯覚を覚えた場合、惜しみなく大枚をはたくはずです。探求心がある、というか、それだけ音域を広げること、いい音を出すことが難しい楽器だからでしょう。努力や根性では如何ともし難い壁があって、それを道具で乗り切ろうとするのは至極全うな考えではないでしょうか。要は、自己の身体的特性で最大限のパフォーマンスを達成するためには、最終的には道具によるところが大きいと思います。スポーツ選手とまったく同じです。ついでにいえば、楽器の修練は、繰り返し肉体に動作を覚え込ませ、反応速度や再現性を高めていくことが、いわゆる「基礎練」に当たります。その上であとは感覚的なこと。音感であるとか、リズム感で独自の持ち味を発揮していくシビア―な世界。最終的には「上から降りてくるかどうか」で、「降ろす」ためには気の遠くなるような引き出しを修練によって作っておくことが必要でしょう。

 話はそれましたが、これまで愛用したトランペットのマウスピースはBach6C、YAMAHA中川モデル16NJ、14B4EEあたりです。マウスピースの相性は、歯並びによるとろが大きいと思います。私の場合、前歯2本が比較的大きく、且つやや出っ張っています。一見そうは見えませんが、実際そうなどのです。論理的には、前歯が大きいと、唇の「赤い部分以外」をマウスピースに当てる際に、いや応なく、前歯の大きさによって赤い部分を巻き込めない弊害が生じます。厳しい。が、肉体的条件はたやすく変えられるものではありません。そうなると、もはや道具を合わせていくしかないのですよね。

 大きな2本の前歯が出ている点を踏まえると、カップには「えぐり」がほしい。「えぐり」があることで、唇がカップに当たって振動しなくなることを防ぐ効果があります。これは私にとっては必須のスペックといえるでしょう。Bachなど多くのマウスピースは、歯の大きさが均一で、且つ下あごが出ていて歯と歯のかみ合わせが一致する西洋人の骨格を基本に設計されていますので、そうでない骨格の人はまず持久力が保てない。最近、日本人でも極めて上手いトランペッターが増えたのは、歯列矯正とかが一般的になされるようになったからではないでしょうか。昭和期のように、歯並びに無頓着ではなくなったことが大きな要因のように思います。

 自身の肉体的条件で、これまでベストだったマウスピースが先のYAMAHA中川モデル14B4EEなのです。個人的にはロングセラーで、ここ10年ぐらい、メーンで使っているのではないでしょうか。持久力が保てるし、音域もそこそこ。ただ、唯一の欠点がスロートの狭さ(♯28)でしょうか・・Bachだと♯27なのですが、この違いは結構大きいと感じます。バックボアの形状もあって、♯27の方が音質などのバリエーションを生み出しやすいのですが、耐久性の面で結構きつい。♯28は、特に14B4EEの場合えぐりもあって、ジャス演奏には極めて合っているのですが、音質がもう一つ納得できない。そこで最近、新たなマウスピースを導入してみました。blackburn3Cです。

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「ミディアムヘビー」タイプとの説明があります。

現在私が使っているトランぺット、YAMAHAの中川モデル「Big sound」は、中庸のウェイトの楽器で、おそらく「モネット」ほどヘヴィーなマウスピースとは合わないと思いますが、YAMAHA14B4EEでは、スロートが狭い分、やや「軽い」フィーリングになってしまいます。「ミディアムヘビー」であれば合うのではないかと直感。中古で購入したところ、これ、めちゃくちゃいいではないですか。久々のヒット、と言っても過言ではありません。「えぐり」もあります。気持ちスロートが狭いか、バックボアの広がりが緩やかな印象を受けます(後者か)。それをマウスピースの重さで補っているような感じ。重さが適正にエネルギー転化されているような好印象を受けます。ハイ音域もかなり粘ってくれる。ちょっと期待できるかもしれません。3Cの型番ですが、Bachの3Cよりもほんの少しだけカップ型が小さい感じがします。

 Blackburnといえば、楽器本体はさることながらBachのチューニング・スライドでも有名。昔、楽器本体を中古楽器店で試奏したことがありますが、めちゃくちゃ吹きやすく、且つダークな音の楽器で購入したかった思い出があります。30万円でした。当時であれば、思い切って買っておけばよかったかなと惜しまれます。だから結構、Blackburnには思い入れがあるんですよね。このマウスピース、暫くレギュラーで使ってみたいと思っています。