無人島に持って行く1枚のアルバム

 よくある例えですね。要は、数多い音楽アルバムの中から1枚何を選ぶか。究極の1枚は何か。本当は1枚なんてケチなこと言うなよと思いますが、それでも1枚と言われたら何を選ぶのか。私は迷わずギル・ゴールドステインとトニーニョ・オルタの「インフィニティ・ラヴ」を選びます。

  一体何百回、いや千回以上通して聴いているのではないかな。このアルバムの凄いところは最近聴いた時でも新しい発見があるというところ。こんなアルバム滅多にないですよ、ほんとに。リズム、ハーモニー、メロディー、即興と全てが完璧な形で調和していて、これを聴けば近代の音楽がなし得たことがほぼ盛り込まれているのではないかとさえ思えてきます。

 聴きはじめのころはメロディーの美しさやホメロ・ルボンバの超人的なアコースティック・ギターソロにばかり耳がいって、その点だけでも数百回は十分に聴けますが、数百回聴くとさらに奥深いハーモニーの妙や急速サンバで示される超絶なリズム感覚に圧倒されてきます。背後に大きなリズムのうねりのようなものがあって、それがとんでもないグルーヴ感を醸し出しているんですね。

 最近はラスト曲の「アマゾン」の良さに気付きました。「え、なんで今さら?」確かに、今さら。多分、冒頭の「マイ・フーリッシュ・ハート」の印象が鮮烈すぎて、最後の曲をじっくり聴くまでには相当の時間が必要だったのでしょう。なにがなにが、「アマゾン」も勝るとも劣らない名曲でした。

 パーカッションやバードホイッスルでジャングルの密林の雰囲気を演出するうちに、哀愁を帯びた美しメロディーが聴く者を音絵巻に誘い込む。しかも、哀愁を帯びたマイナーキーのメロディーは転調しながらやがてメジャー・キーに移行。ブラジル系音楽らしいコード進行でマイナーとメジャーが交錯する様は、あたかもジャングルの光と影を思わせる壮大な作りとなっています。8小節のモチーフを即興で繰り返すうちにソロがどんどん熱くなっていき、聴く方はカタルシスを感じずにはいられません。

 それでも、アルバムの中でも冒頭の「マイ・フーリッシュ・ハート」は極めつけ。「無人島に持って行く1曲」なら間違いなくこれです。イントロの印象的なモチーフは明らかにトニーニョ・オルタのセンスでしょう。たった5小節のモチーフにとても多くのものが詰まっている。かと思えば5月のそよ風のようにどこまでも爽やかなモチーフ。ホメロの超絶ソロも決して嫌味にならず、すべてが奇跡的に調和している世界。これを愛といわずして何といおうか。どんなにまずい状況に陥ったときでも、感情が最低レベルのときでも、この演奏はそっと心を包み込んでくれる。「この世は捨てたもんじゃないよ」と語りかけてくれる。これだけの巧者たちが尖らず、一つの方向を向き、無欲に音楽を創造する有り様。時代もあるかもしれないけど、なかなかこんな音楽は出てこない。

 


Infinite Love / My Foolish Heart Gil Goldstein, Romero, Toninho